「興味深い話だな」
「つまりなんだい?」
「これまで、Webアプリを作成する際のSafari対応は、単にIEとChromeとFirefoxと一緒にSafariを入れて試すだけの話だった。iPhoneとiPadを別とすれば」
「それで?」
「Windows版のSafariが提供されないとすれば、SafariでのテストはMacintoshを買え、と言いたいのだろう」
「Apple商法だね。対応させたければ金を払えと。Macを買わないと開発できないiOSと同じだ」
「しかし、そこまでは話の前座だ」
「えっ? その先があるの?」
「そうそう」
「何があるの?」
「iPhone/iPadの本当の敵は何か」
「Windows PhoneじゃなくてAndroidといいたいの?」
「いいや。ほとんど嘘とまやかしで叩かれてシェアが伸びないWindows Phoneも、ほとんど学芸会レベルのAndroidも敵じゃ無い」
「じゃあ何?」
「同じプログラムをiPhone版Android版……と何個も書くのに嫌気がさした連中がこぞってネイティブの世界からHTML5の世界に移行しようとしている……ような気がする。HTML5の手応えはかなり厚い」
「そうか。絶対にMacintoshを買わないと開発できないiPhoneの世界からMacintoshを買わなくても開発できるHTML5の世界に行かれるとAppleは困るわけだ」
「そうなれば次の打つ手は1つだよ。『Safariで動作するように開発したければMacintoshを買え』」
「だからWindows版は消えて無くなるわけだね」
「そうだ。現在の秩序はAppleが望んだ方向に進んでいないと見た。というか、少数の信者では無く、単に流行っているからiOSアプリを書いていた連中はAppleに囲い込まれる現状を全く喜んでいないように思える。どうせすぐにAndroid版をくれという話になるが、そこで同じコードを書き直すのはアホらしい。そして、中立の技術として特にHTML5への注目が顕著に見られる……ような気がする。しかし、WebKitでHTML5を推進しちゃったのがAppleという事実も残る。追い上げるときに有効だった戦略が、1強になっても有効とは限らない、ということだろう」
「それって事実と思って信じて良いの?」
「さあ」
「さあって……」
「何も裏付けを取ってないから何も信じるなよ」
感想 §
「それで君は何に注目しているのだい?」
「どうやら1強Appleの足許がかなり危ういらしい。こけるときはアッという間かも知れない。そしてAppleを脅かす敵はMSでもGoogleでもなく、友軍だったはずのHTML5だ」
「そこが皮肉で、皮肉屋の君には面白いわけだね」
「ちなみに、うちでは既にかなり長いことHTML5開発を進めてきている。この世界の基本は、デバイスへの依存性を減らすライブラリの活用であることも良く分かった。デバイスを売る側としては客を囲い込めないから面白くない技術だろうさ」
「でも、デバイスに限定されずにソフトを供給したい側にはそっちの方がいいわけだね」
「そうそう。おかげでどんどんノウハウが溜まっている。半年経ったらコードが別者になるぐらいHTML5に浸ってる」